認定企業の声

株式会社 武林製作所

自社製品開発でBtoBからBtoCに
他社からの見る目が変わり、社員のやる気もアップ

株式会社 武林製作所

代表取締役社長
武林 美孝 氏

匠の技を凝縮した自社製品で
町工場から新たなステージへ飛躍

1972年の創業以来、歯ブラシ用金型製造で国内トップメーカーの武林製作所。その技術力は大阪府知事より「なにわの名工」として表彰された職人が3名もいることでも証明されている。2008年度にはものづくり優良企業賞「匠」を受賞。その卓越した技術力と、武林氏の「町工場から脱却したい」という情熱から誕生した自社製品が、2018年に大阪製ブランドに認定された「カトラリーレスト ITADAKI」だ。

歯ブラシの金型製造は、受注生産のため閑散期と繁忙期が不定期に訪れる。機械が稼働せず職人さんが手持ち無沙汰になる時期もあるため、武林氏はずっと、下請けではない自社のブランドを開発したいと考えていた。でも何から始めていいかわからない。そんなとき、専務から大阪商品計画の話が舞い込む。「原案もないし初めてのことだから不安だらけでしたけど、一からアドバイスをいただけて、最終的にはギフトショーで発表という目標もあると聞いてチャレンジみようと思いました」

最初の大きな難関が商品のアイデア出し。
新商品開発のために30代~60代まで6名のチームを結成し、アイデアは170種類にものぼった。「プロダクトデザイナーさんからアイデア出し100本ノック! と言われて(笑)。本当に苦労しました。最終的にはプロダクトデザイナーさんの力もかなり借りましたね」

こうして完成したカトラリーレスト(箸置き)は、「ITADAKI」と命名。名前の由来は、日本一の高さを誇る富士山から。「技術力№1」「山の頂」「いただきます」などの様々な意味が込められており、作り手の「最高峰の技術を追求し続ける姿勢」を表している。菊、梅、桜、芍薬、ツツジの5種類の日本伝統の柄を職人が熟練の感覚で1ミクロン(1/1000mm)単位に調整し、仕上げは「なにわの名工」が手作業で一つ一つ磨き上げる。お値段は2個セットで24,200円~。

「値段が値段なのでそんなにたくさんは売れないですが(笑)。それでも技術力を見て、金型の切削技術で作り上げたということを知ってもらえます。取引先からの評価は変わってきていると思います」。大阪製ブランドに認定されことにより社内の意識が変わり、社外からの評価にも大きな影響をもたらした。

熟練の技術者が1ミクロン(1/1000mm)単位で刃を調整し、繊細な模様を施したカトラリーレスト「ITADAKI」。ボトルコースター、ネクタイピンと「ITADAKI」シリーズ3部作がある。

金属からプラスチックへ発想を転換
コロナ禍を救った「マスクのほね」

コロナ禍の影響でホテルの宿泊客が激減するとともに、アメニティの歯ブラシの生産も激減。金型の受注が減り、会社も次の一手を考えなければいけない状況に。実は新型コロナウィルスがまん延する前、カトラリーレスト・ボトルコースター・ネクタイピンの「ITADAKI」シリーズ3部作を製作していたが、第4弾に頭をかかえ、次はもっと手に取りやすいものを、と社員全員にアイデアを公募した。

「ITADAKIチームの6人は慣れているものの、他の社員はいったい何をさせられるんだと戸惑っていましたね。3回公募を行ったのですが、1回目、2回目はなかなか良い案が出てきませんでした。
そこで、3回目は『工場でも使えるもの』というテーマで、発案した社員自らがITADAKIチームにプレゼンする形式にしたんです。3回目になるとみんな家族まで巻き込んで考えてくれて、アイデアは100を超えました」

そうして生まれたのが、マスクフレーム「マスクのほね」。市販のマスクフレームは、重い、しまうのが大変などの声を聞き、改良を重ね3Dプリンタで製作、テスト販売したところ、予想外に売れた。「これ、良いね」との声が多数届く。

「ネットで何度も購入してくれた方がたまたま看護師さんで、便利だから同僚にも配ると言ってくれて。コロナ禍の医療現場の役に立てればと思い商品化に踏み切りました」。2020年の12月に新商品「マスクのほね」のプレスリリースを配信し、さまざまなメディアで取り上げられると瞬く間に売れた。

「マスクのほね」には金型づくりで培った高い技術力がしっかり活かされている。マスクをしっかりホールドするにはフックの隙間をできるだけ狭くする必要がある。その分金型が薄くなり成型時にかかる数十トンもの圧力で金型が折れやすくなるが、これを同社の金型製造技術を活かして解決したのだ。

さらに歯ブラシで培った「安心、安全」を追求し、樹脂は6種類以上から厳選。10本入りなのは「皆でシェアしてほしい」という想いから。10本、50本、100本入りの3種類を展開している。「使い心地がよかったから人にあげたらなくなったという声もよく聞かれます」。現在は要望が多かった小さめマスク用「マスクのこぼね」も発売。子どもでも付けられるサイズから、4種類を展開している。

使い方は、不織布マスクに取り付けるだけ。マスクの中心を背骨のように1本のフレームでささえることでマスクの内側に空間を作り息苦しさや蒸れを軽減してくれる。「マスクのほね」が完成するまでの資料をまとめた分厚いファイルはまさに社員の汗と涙の結晶。

「大阪が認めたもの」という自信から
自社への誇りと社員のやる気が向上

現在「マスクのほね」の製造は外注先の成形メーカーに依頼して、一部販売を他社に任せることも。これまでの受注生産から、仕事を出すという立場にもなっている。新たな取引先や、新しい顧客層へと販路も広がった。

「商品がどこで販売されたかとか、どこで紹介されたというのも、朝礼で全員に伝えています。世の中が暗いニュースばかりなので喜び事は共有したい。2021年度に「マスクのほね」も認定を受けて、「大阪製ブランドサミット」で表彰状をいただいたので、朝礼でみんなに「もらったで! どや!」と見せました(笑)。

大阪製ブランドのイベントで出店した阪神百貨店の売り場の写真も見せました。コロナ禍の世の中で、仕事は笑顔で進めないと楽しくないし、仕事の喜びがたくさんあっていいと思っています」

「ITADAKI」を作ったことでBtoBからBtoCに飛び出し、他の会社から「何をやってるんだろう」と奇異な目で見られることもあった。しかし大阪製ブランドの冊子を見せると周りの反応は変わるという。「大阪製ブランドの冊子にのって、大阪のいいものだと認められることで、ものすごく強みになっています。中小企業は大手と違って広告を出すにも限界がありますが、大阪製ブランドとして色々な所に出していただけるのは大きいです。大阪製ブランドの威力、といったらおかしいかもしれないけど、大阪製ブランドを取ったからにはその名に恥じないようないい商品を作らないとあかんという気持ちにもなります

もともとの取引先からも金型とは違う部分で、技術力や開発力を見てもらえるようにもなった。他の会社からアドバイスを求められることもある。「たまたま当たっただけなので大それたことは言えないですが(笑)。何もしないよりはできることをやった方がいいかなと思います。
たくさんの苦労がありますし、すべての苦労が実るわけじゃないけれど、やらずに実る苦労はないですしね。いろいろチャレンジしようかなと思います。次回作はまだ全然わからないですけど(笑)」。

金型の技術で繊細な模様を作った「ITADAKI」、金型の技術をフックの部分に活かした「マスクのほね」。匠の技術は今後どのように活かされるのか、楽しみでたまらない。

「町工場にとどまらず、賞などをいただいて、もっとうちの会社をアピールしたい。そんな思いもあって大阪製ブランドにチャレンジしました。発表の場としてはすごくよかったです。大阪製ブランドの冊子はいろんなところに配って活用しています。お客さんの見方も変わるし、大阪製ブランドの一つに入れたということがすごくうれしかったです